1、過去に交通事故の被害に遭い後遺障害が残り、今回の交通事故で同一部位に後遺障害が残存した場合に、逸失利益や後遺障害慰謝料をどのように算定するのか、問題となるケースがあります。今回の交通事故前に生じていた障害を「既存障害」といい、今回の交通事故後に残存した障害を「現症」といいます。
2、例えば、過去に被害に遭った交通事故で神経症状として14級9号(局部に神経症状を残すもの)の後遺障害等級の認定を受けたことがあり、今回の交通事故で神経症状9級10号(神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの)の後遺障害に該当する場合に、逸失利益や後遺障害慰謝料はどのように算定されるでしょうか。
事案にもよりますが、裁判例の傾向としては、今回の交通事故前の実収入を基に、現症の労働能力喪失率から既存障害の労働能力喪失率を控除して算定する方法が用いられています。
上記の例では、一般的に、9級10号の労働能力喪失率は35%であるところ、14級9号の労働能力喪失率は5%であるため、35%-5%=30%を今回の交通事故による労働能力喪失率として逸失利益を算定します。また、後遺障害慰謝料についても、9級の裁判基準670万円から14級の裁判基準110万円を控除した560万円を、今回の交通事故による後遺障害慰謝料と認定することになります。このような算定方法を「引き算方式」といいます。
3、このような「引き算方式」に対しては、今回の交通事故前の実収入は既存障害の影響による減収分が反映されているにもかかわらず、更に既存障害の喪失率の全部を差し引くとすれば、金額が少なくなり過ぎるおそれがあるという批判もありますが、実際には、今回の交通事故自体による労働能力喪失率を的確に●%と認定することが困難であることもあり、引き算方式により算定することもやむを得ない面があるように思います。
他方で、既存障害と現症の内容や程度、被害者の職業、従事する作業の内容等によっては、既存障害が労働能力に影響を及ぼしているとは認められず、既存障害を考慮することなく、逸失利益や後遺障害慰謝料を認定している裁判例もあります。
逸失利益や後遺障害慰謝料を適切に評価するためには、弁護士によるきめ細やかな主張・立証が大切であるといえます。