交通事故で損害を受けた場合、事故の相手方や相手方が加入する任意保険会社に対して損害賠償を請求していくのが一般的です。
ただ、勤務中や通勤中に事故に遭った場合は、交通事故であっても労災保険からの給付を受けることが可能です。
労災保険では、病院の治療費等の療養補償給付や、働けずに賃金を得られなくなった際の休業補償給付、後遺障害が残った場合の障害補償給付などの給付があり、事故の相手方や相手方保険会社に請求する損害賠償と重なる部分があります。
このように、相手方への損害賠償と労災保険とで重なる部分について二重取りすることはできませんが、労災保険を使うと相手方へ一切損害賠償ができなくなるわけではなく、補償が重ならない形(二重取りにならない形)で両方に請求することができます。
労災保険の場合、事故の過失割合とは無関係に給付を受けることができ、過失相殺が認められるようなケースでも、治療費全額について療養補償給付が認められ、治療費を自己負担する必要はありません。
また、休業補償給付に関しては、直前3か月の平均賃金の60%が支給されるのとは別に、20%の休業特別支給金が支給されますが、この20%分は相手方への損害賠償とは無関係に(差し引かれずに)支給を受けることができます。
同様に、後遺障害が残った場合の障害補償給付においても、別に障害特別支給金が支給されますが、これも相手方への損害賠償とは無関係に支給を受けることできます。
このように、労災給付では、相手方への損害賠償請求ではカバーできない支給を受けることができるのです。
一方、相手方への損害賠償では、精神的損害について慰謝料を請求することができますが、労災保険では慰謝料は補償の対象外であり、相手方へ損害賠償請求しなければ、慰謝料を受け取ることができません。
その他、後遺障害に関する損害等は、労災保険で認められる金額以上に相手方へ損害賠償請求できる場合がありますし、自動車の修理費用等の物損については労災保険の対象外であり、相手方に請求するしかありません。
したがって、交通事故で労災保険が利用できる場合には、労災保険と相手方の両方に請求することにより、受け取ることができる金額を増額できる場合が多いです。
また、治療が長引く場合などは、相手方保険会社から一方的な治療打ち切りを求められるケースも少なくないですが、労災保険を利用して治療している場合には、そのように治療打ち切りを求められることは通常なく、医師が必要と判断すれば、治療を継続しやすいです。
労災保険を利用した方がいいのかどうか、労災保険と相手方への請求のどちらを先行した方がいいかなどは、ケースごとに異なるところもありますので、まずは弁護士に相談されることをお勧めします。