交通事故で、着衣や自動車に積んでいた携行品などが損壊した場合、それらについて賠償はされるのでしょうか。
1 原則
交通事故で着衣・携行品が損壊した場合にも、損害として賠償されますが、新品価格の賠償ではなく、修理が可能な場合は修理費用又はその物の時価額のいずれか低い方が損害として賠償されることになります。もっとも、事故により着衣等は破損しているため、その物から時価を算出することは困難であるため、実務上は、購入時期及び購入金額の証明ができる場合には、購入からの経過年月数に応じ、税法上の法定耐用年数を参考として減価償却の方法により、一定割合を減価した限度で賠償されることが多くみられます。
例えば、新品購入価格30万円のノートパソコンを3年間使用した時点で、交通事故に遭い破損した場合には、パソコンの法定耐用年数4年のうち3年の使用年数を参考に、このパソコンの時価は7万5000円と算定されることになります。
他方、購入時期及び購入金額の証明ができない場合には、被害者の記憶等に基づき購入価格を認定し、その一定の割合を損害として認めることになり、そのような算定を行った裁判例もあります(神戸地判平成27年1月29日)。
2 例外
⑴ 価値の減少がない物
もっとも、物によっては、年数の経過により価値が減少しないものもあります。そのような場合には、上記の方法で減価されることなく、購入価格が賠償されることもあります。例えば、購入から1年半程度経過したバイオリン(700万円で購入)及びバイオリン弓(200万円で購入)が、事故により焼失した事案において、バイオリンの価格は作者、音質、製作方法等で決められるものであり、年数の経過により価値が減少するものではないとして、購入価格(900万円)での賠償を認めた裁判例があります(名古屋地判平成15年4月28日)。
⑵ 眼鏡、義肢、補聴器等
また、事故により、眼鏡、義肢、補聴器等の身体に密着し、生活上必要不可欠な物が破損することがあります。これらについては物であるものの、身体機能を補完するためのものとして、物的損害としてではなく、人的損害として賠償されることになります。そのため、必要性・相当性が認められる場合には、経過年月数による減価はなく、購入費用が賠償されることになります。
⑶ その他
上記以外にも、着衣や携行品の賠償に関しては、破損物の中のデータが使用できなくなった場合にそのデータ修復のための費用を損害と認めた裁判例(東京地判平成17年10月27日)や、事故車に積載されていた物が商品であった場合に、物理的に損傷した場合でなくても、その商品が破損していないか確認するためには高額の検査費用がかかることから、経済的に商品価値が喪失したとして、その商品価値を損害と認めた裁判例(大阪地判平成20年5月14日)など、様々な裁判例が存在します。
3 以上のとおり、交通事故により着衣・携行品が破損した場合には、損害として賠償請求できますが、損害として何が認められるか、また、損害額の算定については難しい点もありますので、弁護士に相談されることをお勧めします。