1、慰謝料とは、被害者に生じた精神的苦痛を填補するものであり、被害者が死亡した場合には死亡慰謝料、入通院した場合には入通院慰謝料(傷害慰謝料)、後遺障害が残存した場合には後遺障害慰謝料(後遺症慰謝料)に分けて、算定するのが一般的です。

2、慰謝料が精神的苦痛を填補するものであることから、被害者が被った損害の内容や程度、加害者の過失行為の内容、被害者の年齢、職業、家族関係等一切の事情が考慮されますが、裁判実務では、一定の基準が示されています。

被害者が死亡した場合の死亡慰謝料に関していえば、被害者が「一家の支柱」の場合には2800万円、「母親、配偶者」の場合には2500万円、「その他(独身の男女、子供、幼児等)」の場合には2000~2500万円が基準額とされています。なお、被害者が死亡した場合には近親者も固有の慰謝料を請求することができますが、上記基準額には近親者の固有の慰謝料も含まれています。

3、「一家の支柱」が他の者よりも高額に設定されている理由として、慰謝料には残された遺族への扶養的要素が含まれているからであると考えられています。

この「一家の支柱」ちう用語は、昭和40年代に基準額が最初に策定された当時、夫は外で働き、妻は専業主婦で子育てをするという当時の一般的な家族構成を想定して使用されたものであり、多様化した現代の家族構成に合致していないという問題があります。例えば、現在では共働きの世帯が増えており、夫婦に同じくらいの収入があり片方が死亡した場合に、「一家の支柱」として高額の死亡慰謝料を認めることになるのか問題となり得ます。

また、高齢の夫婦で夫が死亡した場合に、夫には自身の生活費を賄う程度の年金収入しかない場合には、仮に、夫が「精神的な支柱」であったとしても、必ずしも「一家の支柱」として慰謝料が認められるわけではありません。他方で、収入が乏しかったとしても、家事労働を主に担っており、死亡により遺族の生活に重大な支障が生じている場合には、「一家の支柱に準じる者」として慰謝料を算定する場合もあります。

4、このように、死亡慰謝料の基準が定められていることから一定の予測が立つとはいえ、個々の事情を主張立証して、適正な慰謝料額が認定される必要があるといえます。

また、裁判前の保険会社との示談交渉においては、保険会社は、各保険会社の内部基準に従って、まずは裁判における基準額の80%程度の金額を提示してくることが多いです。保険会社との直接の交渉自体が精神的な苦痛を増幅させることもあり、早い段階で弁護士に相談されることをお勧めします。