受傷自体が争われる場合

 

1.はじめに
 交通事故の中でも、ドアミラーが接触した場合などのように損傷が軽微な場合や、ハンドルを切ったり、急ブレーキをかけたりすることで接触を回避した場合、その交通事故で本当に怪我をしたのか(受傷の有無)が争われることがあります。
この受傷の有無については、被害者側が証明をしなければなりません。

2.衝撃の程度
 被害者が身体に何かしらの損傷を受ける場合、一定以上の外力が加わっていることが通常ですから、受傷の有無を判断する際は、衝撃の程度がまずは重視されます。
車両にドライブレコーダーが付いている場合、その映像から被害者の身体に加わった衝撃を直接確認することができることがありますので、重要な証拠となります。

他方で、ドライブレコーダーが付いていない場合などは、その他の事情から衝撃の程度を推認することになります。

この点、車両の損傷状況は、衝撃の程度を推認する客観的な事情ですので、
・損傷状況の写真や、
・修理の内容や金額が分かる見積書・請求書
が証拠として重要となります。

そして、車両の損傷状況や修理状況から衝撃の程度を推認する際は、事故態様、事故時の速度・角度、車両の車種・重量等も重要になります。そのため、
・警察の作成した物件事故報告書や実況見分調書
・被害者が自賠責に提出した事故発生状況報告書
・車検証
なども重要な証拠となります。

また、衝撃の程度を判断する際には、衝突時に被害者がどのような姿勢であったかも重要視されることが多いです。
例えば、損傷が軽微な交通事故でも、追突事故の場合は、被害者が衝撃を予期しておらず、無防備であるため、受傷しやすいとされています。
裁判例では、追突されたという事情だけではなく、「カーナビを操作するために前かがみになっていた」(横浜地裁令和2年12月10日)、「後部座席運転席側にいた子供をかばう動作をした」(福岡地裁令和2年8月21日)ことなども考慮されています。

そのため、交通事故について弁護士に相談する際には、そのような姿勢についても記憶にある範囲でお教えいただければと思います。

3.受診時期の適切さや治療経過の自然さ
 このような衝撃の程度とは別に、受診時期の適切さや治療経過の自然さも重要視されます。
つまり、交通事故直後に痛みを訴えて病院を受診して、その訴えが事故態様とも一致していて、治療経過も自然であれば、交通事故によって受傷したものと推認されます。

ただ、受診時期の適切性については、交通事故から初診まで一定の間隔が空いた場合も、
・症状自体は事故後数日以内に発現している場合や、
・仕事の都合など受診できなかったことに合理的な理由がある場合は、
間隔が空いているからといって交通事故による受傷が否定されるわけではありません。もし、交通事故から初診まで一定の間隔が空いている場合も、諦めないで弁護士に受診できなかった理由を説明してみていただければと思います。

そして、治療経過の自然さについてですが、具体的には、痛みの部位が変わったり、通常は治療によって改善していくはずの症状が悪化していたりする場合には、それが治療経過として不自然であれば、受傷を否定する事情になります。

なお、傷病名を付して治療を認めた医師の判断が尊重されるべきではないかという考え方もあり得るところですが、受傷自体が争われる事案では、被害者の症状を裏付ける他覚的所見がなく、医師は、被害者の申告があれば、傷病名を付して一定期間治療するのが通常ですので、それだけでは受傷が認められることにはなりません。
裁判例の中にも、医師が被害者から事故の状況を聞いたのみで、損傷状況等を正確に把握して診断したものではないことを理由に、その診断が十分な根拠を伴った診断と認めることは困難と判断したものがあります(東京高判平成30年7月5日)。

4.おわりに
 このように、交通事故の中でも、損傷が軽微な事案や接触していない事案の場合、受傷の有無が大きく争われることがあり、受傷したことを証明するためには、重視される複数の事情を確認しながら、裏付けになる証拠を提出していく必要があります。
そのため、損傷が軽微な事案や接触していない事案の被害に遭われた時には、弁護士に早めに相談されることをお勧めします。