1 胸郭出口とは、首から肩にかけて数か所ある狭い隙間のことで、神経の束や血管が通ってます。

そして、外傷性胸郭出口症候群(thoracic outlet syndrome : TOS)は、頸椎の過伸展、過屈曲により頸部基部の胸郭出口での斜角筋(首の前面に付いている筋肉)の瘢痕性繊維化、腕神経叢周囲の瘢痕組織の形成による腕神経叢(わんしんけいそう、脊髄神経から分岐し頭・首・上肢のうち鎖骨・上腕・前腕・手に繋がる神経叢)が圧迫を受けることにより生じます。

症状は傷害の部位によって異なり、腕神経叢幹部での障害の場合、首から肩にかけての痛み、前腕と環指(薬指)、小指の痛みとしびれなどが生じ、腕神経叢神経束部での障害の場合、尺骨神経、正中神経、橈骨(とうこつ)神経優位のしびれと疼痛などが出現します。手の握力低下と細かい動作がしにくいなどの運動麻痺の症状が出現する場合もあり、手指の運動障害や握力低下の例では、手内筋(手のひらに起始を持つ手の筋肉)の萎縮により手の甲の骨の間がへこみ、小指球筋(小指の付け根付近に位置する筋肉)が痩せてくることがあります。

むち打ち損傷などの頸部軟部組織損傷後に、肩甲帯、上肢のしびれ、痛みなどの神経原性の胸郭出口症候群(TOS)症状を生じた症例が25%に認められ、胸郭出口症候群の病態に外傷性の要因があることが報告されています(井手ら:「鞭打ち損傷の病態に対する臨床的研究:外傷性胸郭出口症候群の関与」日本整形外科学会誌72:S451、1998)。

2 胸郭出口症候群は、肩甲骨が下がるような悪い姿勢を続けたり、重い物を持ち上げる動作の繰り返しが原因で発症し、なで肩の女性や肩こりの人に起きやすいとされていますが、追突事故により頭部が大きく揺さぶられるなどした場合には、頚椎の過伸展、過屈曲が生じて、斜角筋や腕神経叢周囲の頸部軟部組織の損傷に起因して胸郭出口症候群を発症することがあります。

(参考文献 遠藤、鈴木「むち打ち損傷ハンドブック第3版」)