1 TFCCとは

TFCCとは、手首にある三角繊維軟骨複合体(Triangular Fibro Cartilage Complex)のことです。

手関節は8個の手根骨と前腕骨である橈骨と尺骨によって構成されています。手根骨には、舟状骨・月状骨・三角骨からなる近位列と、大菱形骨・小菱形骨・有頭骨・有鉤骨からなる遠位列があります。そして、近位列と橈骨・尺骨の遠位間接面が成す橈骨手根関節と、橈骨尺側切痕と尺骨頭が成す遠位橈尺関節があります。

前者の橈骨手根関節によって、手首を手のひら側に曲げる動作(掌屈)、手の甲側に曲げる動作(背屈)、親指側に曲げる動作(撓屈)、小指側に曲げる動作(尺屈)が可能となります。

後者の遠位等尺関節によって、手首を体の外側に向けて回す動作(回外)や、体の内側に向けて回す動作(回内)が可能になります。

TFCCは、手に加わる力を尺骨に伝達する際のクッション作用を担う関節円板と、遠位橈尺関節を安定化させる掌側・背側橈尺靭帯(三角靭帯)で構成され、上述した手首の動作のうち、特に回外・回内の動作に関係しています。

2 TFCC損傷とは

TFCC損傷とは、このTFCCの一部が傷ついた状態のことをいいます。

TFCC損傷が生じると、回内・回外の掌背屈の動きで痛みが生じます。特に、ドアノブやカギを開ける際に手を捻る動作や手をついて体を支える動作などで痛みが出現しやすいとされています。

また、橈尺靭帯の損傷が高度であると、橈骨と尺骨の間が不安定になり、重量物を持つ時などにも支障をきたすこともあるとされています。

 

3 TFCC損傷の発生機序

TFCC損傷が発生する主要因は外傷で、転倒や交通事故による手首の捻挫によって生じるとされています。

交通事故の場合、例えば、追突時の衝撃で手首をハンドルに打ち付けたり、自転車からの転倒時に手を地面についたりすることによって生じます。

なお、手関節を尺屈したり、その状態で手首を捻ったりする、テニスなどのスポーツによる過度な回内外を原因として生じることもあります。

また、それ以外には、尺骨が橈骨より長いために発症することもあるとされています(尺骨突き上げ症候群)。

 

4 TFCC損傷の確認方法

TFCC損傷はレントゲンには映らず、その損傷についてはMRIで判断をします。

MRI画像のうち、TFCCの部分は黒く描写されるのですが、その部分が白色に描出されると、その部分が損傷していることが示唆されていることになります。

また、TFCC損傷が交通事故以前からあるもの(陳旧性のもの)ではないことを確認する上で、事故直後のMRIに内出血があるかどうか等を確認することも重要です。

つまり、事故直後のMRIにある程度の内出血が確認できる場合には、TFCC損傷が生じる程度の外傷があったのではないかと合理的に推認することができることになります。

 

5 TFCC損傷と後遺障害

TFCC損傷が認められる場合、可動域制限の機能障害で8級6号(一上肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの)、10級10号(一上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの)、12級6号(一上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの)、神経障害で12級13号(局部に頑固な神経症状を残すもの)、14級9号(局部に神経症状を残すもの)が認定される可能性があります。

ただ、手首の可動域制限を測定する際は、主要運動として掌屈・背屈の動きが測定され、撓屈・尺屈は参考運動として考慮されるものですので、掌屈・背屈にはあまり影響を及ぼさないTFCC損傷の場合には、8級6号や10級10号までは容易には認められない印象があります。

いずれにしましても、TFCC損傷が認められる場合、後遺障害等級が認定される可能性はありますので、慰謝料や逸失利益の算定にも大きな影響があり、支払ってもらうことができる損害賠償の金額にも大きな違いが生じ得ます。

 

6 おわりに

TFCC損傷を理由に後遺障害が認められる場合、損害賠償の金額も大きくなり得ますし、交通事故の加害者側も交通事故によって生じたものか(因果関係)や、逸失利益の金額(損害額)を争ってくることも多いです。

交通事故によってTFCC損傷の診断がなされたり、TFCC損傷の疑いが示唆されるなどした場合には、弁護士に相談することをお勧めします。