1 政府保障事業とは
交通事故において加害車両が自賠責保険に入っていなかったり、あるいは、ひき逃げや当て逃げ事故に遭って加害者(加害車両)が見つからなかった場合には、被害者は自賠責保険から保険金をもらうことができず、十分な救済がされない可能性があります。
そこで、交通事故に遭った被害者が、自賠責保険に保険金を請求をできない場合に、政府が被害者の損害を填補して、一定の金額を被害者に支払うという制度があり、これを政府保障事業といいます。 

2 対象となるケース
  対象となるのは、人身事故による傷害、後遺障害、死亡による損害で、①加害車両の保有者が明らかではなく、被害者が自動車損害賠償保障法(以下、「自賠法」といいます。)3条に基づく損害賠償請求(自賠責保険に基づく保険金請求)をすることができない場合(いわゆるひき逃げ・当て逃げで加害車両が不明の場合)、②自賠責保険の被保険者以外の者のみが、自賠法3条による運行供用者責任を負う場合(自賠責保険が付いていない車両による事故、自賠責保険が付いている車両でも、泥棒運転等のために車両保有者に責任が発生しない場合)のケースです。
  政府保障事業は、自賠責保険を補完する制度であるため、物損事故、自損事故、自賠責保険の加入ができない自転車などの軽車両による事故は対象となりません。また、政府保障事業においては、被害者に対して損害の填補を行った後、加害者が判明していれば、加害者に対して求償を行うことになっていますので、同一生計に属する親族間の事故(夫婦間の事故、同一生計に属する親子、兄弟姉妹の事故)の場合には、原則として対象とはならない運用がなされています。

3 請求権者、填補金額等
(1)請求権者
   請求権者は、自賠責保険と同様、傷害・後遺障害については被害者、被害者が死亡している場合には、その法定相続人及び遺族慰謝料請求権者(被害者の父母、配偶者及び子)ですが、加害者は請求できません。具体的な請求窓口は、各損害保険会社と共済組合になります。
(2)填補金額等
   填補限度額は、自賠責保険の保険金額と同じですが(傷害:120万円、後遺障害:障害の程度に応じて75万円から3000万円、死亡:3000万円)、自賠責保険と異なり、健康保険や労災保険等によって損害の填補に相当する社会保障給付を受けることができる場合や加害者から賠償金の一部を受領した場合には、それらの給付金額や賠償金受領額が差し引かれることになります。
   このように政府保障事業は、加害者が無保険車に乗っていたり、あるいは、ひき逃げ等で加害者を特定できず、被害弁償を受けることが期待できない場合に利用できますので、そのような交通事故に遭われた方は、一度、弁護士にご相談されるのがよいでしょう。