交通事故において、事故車両の同乗者に損害が発生した場合、当該同乗者は、過失のある同車両の運転手やその他の事故車両の運転手(相手方)に対して、損害賠償請求をすることが出来ます。
この場合、同乗者には、通常、交通事故の直接の原因となる過失を想定することは出来ません。
しかし、過失相殺の根拠条文である民法第722条第2項に定められている過失とは、公平の観点から、被害者本人の過失のみではなく、ひろく被害者側の過失を包含する趣旨であると解されています(最高裁昭和34年11月26日判決)。
そのため、交通事故の損害賠償請求において、被害者(同乗者)以外の者の過失を被害者側の過失として、過失相殺の中で考慮することがあります。
判例上、被害者側の過失とは、「被害者と身分上、生活関係上一体をなすとみられる関係にある者の過失を言う」(最高裁昭和42年6月27日判決)ものとされています。
「身分上、生活関係上一体をなすとみられる関係」に当たるか否かは、同居の有無や生計の同一性の有無といった事情から判断されます。
そして、同乗者と運転手の関係が、同居する夫婦や親子である場合や、内縁関係にある場合には、被害者側の過失が認められる傾向にあります。
また、一人暮らしをしている大学生の運転する車に、その両親が同乗していた事案では、大学在学中の学費及び生活費のほとんどを両親が負担していたこと等から、「身分上、生活関係上一体をなすものと認められる関係」があると判断されています(名古屋地裁平成11年5月31日判決)。
一方、同乗者と運転手が兄弟姉妹であったとしても、それぞれが独立して生計を立てている場合には、「身分上、生活関係上一体をなすものと認められる関係」は否定されます。
また、運転手と同乗者が夫婦であり、二人で映画を見に行く途中で交通事故に遭った事案において、その後、夫婦が離婚し、同乗者である元妻が、運転手である元夫及び交通事故の相手方の両者を共同被告として訴訟提起をした事案では、「身分上、生活関係上一体をなすものと認められる関係」が否定されています(東京地裁平成18年3月29日判決)。
「身分上、生活関係上一体をなすものと認められる関係」があると判断され、同乗者に被害者側の過失が認められる場合には、運転手の過失を同乗者の過失として考慮することになり、概ね運転手に認められる過失割合と同程度の過失が認められることになります。
事故車両の同乗者になってしまった場合、不当に過失を考慮されないようにするためにも、弁護士に相談することをおすすめします。