交通事故の被害に遭って治療を継続したものの、身体に後遺障害が残ってしまった場合、被害者は加害者に対して、事故前の収入を基に、交通事故に遭わなければ将来得られたであろう収入(「逸失利益」といいます。)を請求することになります。
この逸失利益とは、事故前の収入、労働能力喪失率、労働能力喪失期間を基に算定することになりますが、労働能力喪失率は、自賠責保険で定められた労働能力喪失率が基準の一つになります。自賠責保険では、後遺障害の程度に応じて1~14級までの等級が定められており、1級に該当すれば労働能力喪失率は100%、14級の場合には5%と定められています。例えば、交通事故により、片目が失明または0.02以下の矯正視力になってしまった場合には、後遺障害等級8級1号に該当し、労働能力喪失率は45%と定められています。
 
 しかしながら、自賠責保険で定められた労働能力喪失率を単純に当てはめるだけでは不十分な場合もあります。例えば、プロ野球選手が交通事故に遭い、片目が失明または0.02以下の矯正視力になってしまって選手生命を絶たれた場合、単純に、事故前の収入の45%しか労働能力を喪失したことにならないのでしょうか。それは明らかに不合理です。また、上記の例とは逆に、一定の後遺障害が残存したものの、勤務先の配慮などによって減収が全く生じていない場合に、相手方保険会社からは労働能力喪失率を含め逸失利益の金額を争ってくるケースもあり、実際に、労働能力喪失率を自賠責保険で定められた労働能力喪失率よりも低く認定した裁判例もあります。

 自賠責保険の認定場面では、大量の交通事故案件を公平で迅速に処理する観点から、同じ後遺障害であれば被害者の職業等の個性を考慮することなく、予め定められた認定基準に則って同じ判断がなされますが、示談交渉や裁判の場では、被害者の実態に照らして個別具体的に判断することになります。

 確かに、自賠責保険で定められた労働能力喪失率は逸失利益を算定する上で有力な資料ではありますが、上記の例のように、単純に基準を当てはめただけでは適切な賠償を受けられないケースもあり、障害の部位・程度、被害者の年齢・職業、事故前と事故後の就労状況、減収が生じていない場合にはその理由等を、適切に主張立証する必要があります。そのためには、経験豊富で丁寧に事件処理を行う弁護士に相談する必要があります。