1、死亡慰謝料について

交通事故で被害にあった場合、一定の慰謝料が認められます。慰謝料とは、被害者が受けた精神的損害(精神的苦痛)に対する賠償として一般的に理解され、被害の程度に応じて一定の基準に基づいて算定されます。

例えば、裁判においては、「一家の支柱」が死亡した場合には死亡慰謝料として2800万円、「母親・配偶者」が死亡した場合には2500万円、「その他(独身の男女、子ども、幼児等)」の場合には2000万円~2200万円が一つの目安であると考えられています(なお、上記金額には、遺族固有の慰謝料も含まれます。)。

 

2、高齢者の死亡慰謝料について

⑴ 一家の中心であった働き手が死亡した場合と、収入のない高齢者が死亡した場合とでは遺族の生活に与える影響が異なるのではないか、これから人生を謳歌することができる若年者と人生を全うした高齢者とでは精神的苦痛の程度は異なるのではないかといった考え方から、高齢者の慰謝料を減額すべきではないかという見解があります。

他方で、高齢であることを理由に減額されると残された遺族の被害感情は慰謝されない、人生を享受している度合いによって慰謝料に差をつけることは合理的ではない、高齢者であるからといって人格の価値に差はないはずだといった考え方から、高齢者の慰謝料を減額する見解に否定的な見解もあります。

⑵ 現在の裁判例をみると、高齢の被害者が死亡した事案の場合、上記の「その他」の類型に準じて2000万円前後の慰謝料を認めているものが多く、高齢であることを理由に一律に減額するという考え方はとられていないようです。

⑶ もっとも、高齢者であっても稼働して一定の収入を得ている場合もあり、そのような場合には、高齢者であっても「一家の支柱」に該当することもあり得ます。最近の裁判例の中には、定年退職後も週2~3回働き、専業主婦である妻を養っていた77歳の男性が交通事故で死亡した事案について、死亡慰謝料として2800万円を認定したものがあります。

今後、高齢化社会が進行していく中、働いていた状況や生活状況によっては、「一家の支柱」に準じて慰謝料を認める裁判例も増えてくることが予想され、当時の働いていた状況や生活状況を主張立証することが重要であると考えられます。