1 定期金賠償

定期金賠償とは、債務者が債権者に対して定期的に賠償金を支払う方法です。交通事故の損害賠償でいうと、交通事故により発生した損害のうち、請求権が将来にわたって発生していく損害について、定期的な金銭給付を義務付けるものです。定期金賠償は一時金賠償の分割払いとは異なります。一時金賠償は、事故発生時に被害者の全損害が確定します。この請求権は、すでに発生した債権となります。例えば、1,000万円の損害賠償が確定し、それを1か月に10万円ずつ100か月に分割して支払うとしても、それは分割払いであって定期金賠償ではありません。

定期金賠償は、例えば「原告の死亡まで、毎月末日限り〇万円の金員を支払え」とする賠償金の支払い方法です。支払いの総額が確定していません。つまり、定期金は、支払期ごとに発生する将来の債権です。

2 定期金賠償が認められる損害

民法は、不法行為にもとづく損害賠償について、「別段の意思表示がないときは、金銭をもってその額を定める」と、原則として金銭賠償によると定めているだけで(民法722条1項、417条)、賠償金の支払方法については、何も定めていません。したがって、一時金賠償方式も定期金賠償方式も可能です。ただし、定期金賠償の性質上、定期金賠償方式を選択できる損害とできない損害があり、定期金賠償が認められる損害費目は、「将来介護費」と「後遺障害逸失利益」です。

・将来介護費

将来介護費は、介護保険単価や介護保険の内容について事情変更の可能性もあり、定期金賠償に最も適した損害費目と考えられ、裁判で肯定されるケースがありました。

・後遺障害逸失利益

後遺障害逸失利益については、最高裁が2020年7月9日、従来の一時金賠償方式だけでなく、定期金賠償方式も認められるとの初判断を示しました。

 

3 一時金賠償と定期金賠償――被害者から見たメリット・デメリット

メリット①

定期金賠償方式は、中間利息を控除されないので、賠償金額の目減りがありません。また、後遺障害の程度など損害額の算定の基礎となった事情に著しい変化があったときは、あらためて確定判決の変更を求めることもできます(民訴法117条)。

メリット②

一時金賠償の場合、受け取った賠償金を使い込んでしまうリスクがあります。特に、後遺障害により自分で金銭管理ができないとき、金銭管理を任せた親族が使ってしまうというリスクがあります。定期金賠償であれば、そのようなリスクが軽減されます。

デメリット①

支払義務者が破産するなどした場合、途中で支払われなくなるリスクがあります。支払いは、何十年にもわたって継続します。保険会社が支払うケースであればリスクは低いと考えられますが、リスクはゼロではありません。

デメリット②

長期間にわたって保険会社との関係が続くことです。定期金賠償は、障害の程度など事情が変われば、途中で賠償額の変更を裁判で請求できます。障害が悪化すれば、被害者は増額を求めることができますが、逆に、回復すれば、保険会社から減額を求められます。

つまり、長期間にわたり、保険会社に経過を観察され、減額を求められる可能性があります。

デメリット③

将来介護費に関する定期金賠償は、一般的に「原告の死亡まで、毎月末日限り〇万円の金員を支払え」との判決になります。原告が死亡した場合、それ以降の分は金員の支払を受けることができません。