1 費目間流用の禁止
前回紹介した損益相殺を考えるにあたって、費目間流用の禁止という考え方があるので、今回、ご紹介します。
(1) 費目間流用の禁止とは
交通事故の損害として治療費や休業損害、慰謝料等様々な費目があります。
そして、労災保険金等の一部の保険給付等において、損益相殺の控除をすることができる損害費目の範囲に 制限がある場合があります。
例えば、労災保険で治療費を支払ってもらった場合、他の損害費目に補填されないということがあり、これを費目間流用の禁止といいます。
(2) 具体例
過失割合6:4、治療費100万円、慰謝料が120万円の交通事故を例に説明します。
ア 費目間流用の禁止が妥当しない場合
労災保険を利用しない場合、まずは、加害者加入の任意保険会社から治療機関へ治療費100万円の支払がなされます。
次に、被害者は、加害者(任意保険会社)に対して、残る損害額を請求してくことになります。
この時、被害者の損害額は、治療費100万円+慰謝料120万円のうち、過失割合を考慮した132万円(治療費60万円+慰謝料72万円)となります。
そして、治療費として、100万円が既に支払われているため、加害者に請求する金額は、132万円-100万円=32万円となります。
イ 費目間流用の禁止が妥当する場合
労災保険を利用した場合、まずは、労災保険から治療機関へ治療費100万円の支払がなされます。
次に、被害者は、加害者(任意保険会社)に対して、残る損害額を請求していくことになります。
この時、過失割合を考慮した被害者の損害額は治療費60万円、慰謝料72万円の132万円となります。
しかし、労災保険の場合、費目間流用禁止が妥当するため、労災保険から治療機関へ支払われた100万円のうち、損害額60万円を超えた40万円については、慰謝料部分へ補填されません。
その結果、被害者は加害者へ慰謝料として72万円をそのまま請求をすることができます。
その結果、費目間流用禁止は妥当しない場合に受領できる32万円の2倍以上の慰謝料を受領することができることになります。
2 まとめ
損益相殺について、費目間流用禁止のような複雑な種々の計算があり、これを知らないと補償されるべき損害を補償してもらえないことになりかねません。
交通事故の被害をきちんと補償してもらうためにも、交通事故に強い弁護士に相談をされてください。