1 はじめに

交通事故の損害賠償について、加害者側保険会社との示談交渉がまとまらない場合、法的な手続きとしてまず思い浮かぶのは訴訟の提起かと思います。

もっとも、交通事故の損害賠償をめぐる紛争を解決する手続きは、訴訟だけではありません。訴訟以外にも、公益財団法人交通事故紛争処理センター(以下「センター」といいます。)に申し立てて解決を図る方法があります。

そこで、今回はセンターの手続きの概要と、利用する場合のメリット・デメリットについてご紹介したいと思います。

2.交通事故紛争処理センターとは

(1)センターの概要

センターは、自動車事故の被害者と、加害者や保険会社等との間の損害賠償をめぐる紛争を解決するため、法律相談、和解斡旋(あっせん)、審査を無料で行っている公益財団法人です。

センターは東京本部のほか、全国に7支部・3相談室の計11か所に置かれており、福岡には福岡支部(福岡市中央区天神)があります。どこで手続きをするかは、当事者間の合意がある場合を除き、申立人の住所地や事故の発生地によって決まります。

九州、沖縄での事故は基本的に福岡支部で手続きを行うことになります。

(2)手続きの流れ

センターの手続きは、おおむね次のとおり進みます。

① 法律相談・和解斡旋

弁護士が相談担当者となり、中立公正な立場で当事者双方の主張を聴いたうえで、斡旋案を作成して提示します。当事者双方が合意すれば和解成立です。1回あたりの時間は1時間以内が目安とされています。

②審査会による審査

斡旋自体は何度か調整が図られることもありますが、和解斡旋がまとまらなかった(不調)場合、申立人は、不調の通知を受けてから14日以内であれば審査の申立てができます。審査は、法律学者、裁判官経験者、経験豊富な弁護士等で構成される審査会が行い、裁定が出されます。

※物損事故で双方に過失がある場合などにおいては、審査の申立てについて、双方の同意が必要となるという条件があります。

③手続きの終了

申立人は、裁定内容を告知された日から14日以内に、同意するか不同意かをセンターに回答します。期間内に回答しない場合は、不同意とみなされます。

3 センターの手続きを利用するメリット

(1)費用が無料であること

法律相談、和解斡旋、審査はいずれも無料です。ただし、医療関係書類の取得費用、交通費、資料作成費、通信費などの実費は利用者の負担となります。

(2)専門の弁護士が中立公正な立場で関与すること

相談担当者は交通事故の賠償問題の知識を有する弁護士で、原則として事案が終わるまで交代しません。相談担当者が当事者双方の言い分を聴き、斡旋案を提示するため、当事者同士の交渉だけではまとまらない事案でも解決が期待できます。

(3)比較的迅速な解決が期待できること

センターによると、和解斡旋は通常、3回までで約70%、5回までで約90%の事案で和解が成立しています。訴訟手続きと比較して早期に解決するケースが多いといえます。

(4)初回は電話でも利用できること

希望すれば、初回は電話での相談も利用できます(2回目以降は、事案によって面接となる場合があります)。なお、相談自体は1回で終わるケースも多くあります。

(5)審査会の裁定には保険会社が拘束されること

和解斡旋がまとまらず審査に進んだ場合、保険会社はセンターの裁定を尊重することになっています。一方、申立人は裁定に同意するかどうかを自分で選べます。申立人が同意すれば和解成立となり、裁定の内容に沿って支払手続が進みます。

4 センターの手続きを利用するデメリット・注意点

(1)対象とならない事案があること

次のような紛争はセンターの手続きの対象外です。

①自転車同士の事故など、自動車以外が関係する事故

②ご自身が契約している保険会社との保険金の支払いをめぐる紛争

③「慰謝料のみ」など、損害の一部だけを解決したい場合

④相手方の保険会社が分からない場合や、相手方が保険に加入していない場合

(2)治療中や後遺障害の等級認定中は申し込めないこと

申込みができるのは治療が終わってからです。基本的には後遺障害がある場合は、自賠責保険の等級認定手続き(異議申立てを含みます)が終わってからの申込みとなります(斡旋手続きを開始した後に後遺障害の申請手続自体ができなくなるわけではありません。)。

(3)申込みをしても時効には影響しないこと

センターに申し込んでも、消滅時効の完成猶予事由にはなりません。時効の更新が必要な場合は、申立人自身で法律に定められた手続きを取る必要があります。手続きが長引くと時効との関係に注意が必要です。

(4)自賠責調査事務所の判断を争うことができないこと

センターでは、自賠責調査事務所の判断を尊重して、斡旋手続き、審査手続きが行われます。そのため、後遺障害等級で14級の認定を受けたが、12級が相当であるという主張をしても、基本的には認められません。

5 最後に

このように、交通事故紛争処理センターは、費用をかけずに専門の弁護士の関与のもとで比較的早い解決が期待できる手続きです。一方で、対象となる事案や申込みの時期が限られていることや、時効が更新されないことなどの注意点もあります。

示談交渉が行き詰まった場合は、訴訟とセンターへの申立てのどちらが事案に合っているかを検討することが大切です。センターは弁護士に依頼した事案でも利用できますので、手続きの選択に迷われた場合は、弁護士にご相談いただければと思います。