交通事故損害賠償請求においては、事故態様や過失割合が主要な争点となることが少なくありません。このような場合、加害者に対する刑事手続において作成された実況見分調書や供述調書等の記録は、事実関係を裏付ける有力な証拠となり得ます。もっとも、これらの刑事記録は自由に取得できるものではなく、刑事手続の進行状況に応じて、その取得方法や根拠法令が異なります。
以下では、場面毎にその取得方法についてご説明いたします。
1 加害者が不起訴となった場合
加害者が不起訴処分となった場合、記録は検察庁に保管されます。
この場合、被害者等の当事者は、検察庁に対して記録の閲覧・謄写を申請することが可能です。また、民事訴訟が提起された後であれば、受訴裁判所に対し、文書送付嘱託の申立てを行うことも考えられます。
もっとも、捜査の秘密や関係者のプライバシー保護の観点から、全ての記録が開示されるとは限らない点には注意が必要です。
2 加害者が起訴された場合
(1)刑事事件係属中
刑事事件が係属している間は、被害者等は犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続きに付随する措置に関する法律第3条に基づき、裁判所の許可を得て、記録の閲覧・謄写を行うことができます。
また、民事訴訟提起後には、裁判所に対する文書送付嘱託の申立ても可能です。
(2)刑事事件確定後
刑事事件が確定した後は、刑事訴訟法第53条に基づき、検察庁に対して記録の閲覧を申請することができます。同条では、閲覧することができると規定されているのみであるため、謄写は認められない場合があります。
この制度は、原則として利害関係を問わず申請が可能とされていますが、やはり関係者のプライバシー等への配慮から、一部不開示や黒塗りがされることがあります。
なお、この場合も、民事訴訟係属中であれば、文書送付嘱託の申立を併用することが考えられます。
3 少年事件の場合
加害者が少年であり、事件が家庭裁判所に係属した場合には、少年法第5条の2に基づいて、家庭裁判所に記録の閲覧・謄写申請が可能です。
もっとも、少年の保護の観点から、開示の範囲は一般に厳格に制限される傾向にあります。
4 物件事故報告書の取得
人身事故ではなく物損事故として処理された場合には、「物件事故報告書」が作成されます。
この点については、弁護士であれば、弁護士法第23条の2に基づく照会制度を利用し、警察署に対して報告書の提供を求めることが可能です。
また、民事訴訟提起後には、裁判所に対する文書送付嘱託の申立も利用することができます。
5 文書送付嘱託の活用
以上の各場面に共通して、民事訴訟提起後には、民事訴訟法第226条に基づく文書送付嘱託の申立が重要な手段となります。
これは、裁判所を通じて第三者に対し文書を求める制度であり、当事者による任意の取得が困難な場合において、有効な証拠収集手段となります。
おわりに
刑事記録は、交通事故の損害賠償請求において極めて有用な証拠となり得ますが、その取得には手続的な制約が伴います。特に、刑事手続の進行段階に応じて適切な手段を選択することが重要です。
以上


