加害者である未成年者が盗難車両を運転して起こした交通事故について、被害者の方から、未成年者には資力がないので親を訴えたいという相談を受けることがあります。

 

本来であれば自動車損害賠償保障法3条に基づいて車両の所有者に対して責任追及をすることも考えられますが、盗難車両の場合はそのような責任追及をすることが困難です(最判昭和48年12月20日民集27巻11号1611頁)。

そのため、未成年者の親を訴えることができないかについても検討する必要が生じてきます。

 

まず、加害者である未成年者が“責任無能力者”である場合には、親が監督義務を怠らなかったこと等を証明できない限り、親に対する損害賠償請求は認められます(民法714条1項)。

けれども、“責任無能力者”と認められるのは加害者である未成年者が概ね12歳以下の場合に限られています。

 

他方、加害者である未成年者が“責任無能力者”でない場合(責任能力者の場合)には、被害者側が、親に監督義務違反があったこと等を証明できない限り、損害賠償請求は認められません(最判昭和49年3月22日判決民集28巻2号347頁参照)。

 

そして、交通事故との関係で親に監督義務があったことを認めてもらうためには、交通事故歴や交通違反歴の存在が重要になってきます。

最近の裁判例でも、

・18歳の未成年者が原付自転車を無免許で運転して起こした交通事故について、その未成年者に交通関係の事故歴も前歴もなく、未成年者が危険な運転をしていたことを認める証拠はなく、親がこれを認識していたとは認められない等の理由で親の監督義務違反を否定した事案(京都地判平成28年3月15日自保ジャーナル1975号)

や、

・19歳の未成年者が自動二輪車を運転して起こした交通事故について、その未成年者が交通事故を起こしたり、暴走や危険な運転行為により逮捕されたりしたことはなかったと認めることができるから、親が運転状況を把握しなければならないまでの注意義務があったとは認めることができない等の理由で親の監督義務違反を否定した事案(千葉地判平成26年7月30日自保ジャーナル1931号)

があります。

 

また、監督義務があったことが認められたとしても、監督義務に違反していると認められるためには、十分な調査や指導をしていなかったことを具体的に指摘する必要があります。

最近の裁判例でも、無免許運転や暴走行為をしたことがある未成年者が、仕事を辞めて遊んで外出・外泊を繰り返していたところ、普通乗用自動車を無免許運転して起こした交通事故について、外出・外泊の際に親が未成年者に対してメールをすることはあったものの、①これに対して未成年者が返信をしなかった場合もその行動を問いただそうとせず、②未成年者からの報告を鵜呑みにするばかりで、さらに未成年者の行動を調査しようなどとはせず、③自転車の運転をしてはならないことなどを指導することもなかったことを理由に監督義務違反が認められています(京都地判平成28年3月18日自保ジャーナル1977号)。

 

このように、未成年者が加害者である場合に、親に対しても損害賠償請求をすることは容易ではなく、法律の専門家による緻密な分析が必要となってきます。

もし、親に対する損害賠償請を検討したい場合には、交通事故歴や交通違反歴との関係で親に監督義務が認められるかや、親が十分な指導や調査をしていないと言えるかどうかについて弁護士に相談することをお勧めします。