1 はじめに
近年、自転車の性能が向上したり電動自転車の普及によって自転車の速度が上がる等、自転車に関する事故が重症化・複雑化するに至っており、自転車に関する事故が注目されるようになってきました。
このように、自転車と四輪車又は歩行者、自転車同士の事故の場合など自転車に関する事故の過失割合についても自転車を四輪車と同様に考えて判断していいのでしょうか。
2 自転車の特殊性
自転車事故における過失割合を考えるにあたっては、自転車の特殊性を考慮する必要があります。
そもそも、道路交通法上、自転車とは、ペダル又はハンド・クランクを用い、かつ、人の力により運転する二輪以上の車であって、身体障害者用の車、小児用の車、歩行補助車等以外のものをいい、自転車は、軽車両(道交法2条1項11号)に該当し、「車両」の1つとして位置づけられています。そのため、自転車は、原則的に道路交通法上の車両を対象とする規制に服することになります。
他方で、自転車は、四輪車と異なる自転車特有の規制もあります。
例えば、自転車道が設けられている道路においては、自転車道を通行しなければならず(道路交通法63条の3)、自転車道が設けられていない場合、歩道又は路側帯と車道の区別がある道路においては、車道を通行しなければならない(同法17条1項)と規定されており、例外的な場合に限って、歩道を通行することができるとされる(同法63条の4第1項)など通行場所が定められています。また、自転車は右折するときは、できる限り道路の左側端に寄り、かつ、交差点の側端に沿って徐行しなければならない(同法63条の7)という、いわゆる二段階右折が義務付けられているなど自転車特有の規制があります。
なお、自転車の通行場所の詳細については、本ホームページ2022年2月17日付弁護士コラム「自転車の通行場所」も併せてご覧ください。
加えて、自転車には、①四輪車・単車と比較して、一般に軽量かつ低速(普通の速度は時速15㎞程度である。)であり、簡易な構造であるため運転操作や停止措置が容易であり、他者と衝突した場合に相手方に与える衝撃や外力が少ないということや、②自転車の運転にあたっては運転免許が不要であるため、自転車利用者に道路交通法規が周知徹底されておらず、道路交通法規が必ずしも遵守されていない交通実態があるという特有の事情もあります。
このように、自転車は四輪車とは異なった特有の規定や事情がありますので、過失割合を判断するにおいても、自転車を単純に四輪車と同視すべきではないということになります。
3 自転車事故に関する過失割合
交通事故の過失相殺率について、実務では別冊判例タイムズ38号(以下「別冊判タ38号」といいます。)が参考にされており、自転車事故においても、別冊判タ38号が参考にされることになります。
⑴ 歩行者と自転車の事故における過失割合
基本的には、歩行者と四輪車・単車との事故態様と同様の事故態様が考えられることから別冊判タ38号の「歩行者と四輪車・単車との事故」の事故態様における四輪車・単車を自転車に置き換えて過失相殺率を基準化することになります。
しかし、自転車は、前述①のとおり、四輪車・単車と比較して、一般に軽量かつ低速(普通の速度は時速15㎞程度である。)であり、簡易な構造であるため運転操作や停止措置が容易であり、他者と衝突した場合に相手方に与える衝撃や外力が少ないという事情から、事故態様によっては歩行者の基本の過失相殺率を自転車に有利に修正される傾向にあります。そのため、別冊判タ38号に「歩行者と自転車との事故」という独立した章が設けられています。
例えば、歩行者が横断歩道を横断中に直進車と衝突した場合で、歩行者が青信号点滅で横断開始:四輪車が赤信号で進入し事故が生じた場合、その過失割合は、歩行者10:四輪車90ですが【2】、歩行者と自転車の場合で、歩行者が青信号点滅で横断開始:自転車赤信号で進入し事故が生じた場合は、歩行者15:自転車85【52】と自転車に有利に修正されています。もちろん、事故態様によっては修正されないものもあります。
⑵ 自転車と四輪車・単車との事故における過失割合
基本的には、単車と四輪車との事故態様と同様の事故態様が考えられることから、別冊判タ38号の「単車と四輪車との事故」の事故態様における単車を自転車に置き換えて過失相殺率を基準化することになります。
しかし、自転車の速度は、通常、四輪車や単車の速度と歩行者の速度との中間であり、小走りの普通人に対する注意義務と同視しうると考えられるため、事故態様によっては単車の基本の過失相殺率を自転車に有利に修正される傾向にあり、これに関しても別冊判タ38号に「自転車と四輪車・単車との事故」という独立した章が設けられています。
例えば、信号機により交通整理が行われている交差点における事故の場合で、単車と四輪車との事故の場合、単車赤信号:四輪車赤信号の出合い頭事故が生じた場合には、単車40:四輪車60ですが【164】、自転車と四輪車の場合で自転車赤信号:四輪車赤信号における事故が生じた場合には、自転車30:四輪車70【239】と自転車に有利に修正されています。もちろん、事故態様によっては修正されないものもあります。
⑶ 自転車同士の事故における過失割合
上記⑴⑵について、別冊判例タ38号に独立の章が設けられ、過失割合が類型化されているのに対し、自転車同士の事故における過失割合は類型化されていません。しかし、自転車同士の事故は道路交通においては対等な関係にあるもの同士の事故といえ、原則としては、別冊判タ38号の「四輪車同士の事故」の基準に従って検討することになります。
もっとも、自転車には前述の特殊性があることから、裁判例によって「四輪車同士の事故」基準を修正したものも多数存在します。
例えば、信号機により交通整理が行われておらず、左右の見とおしのきかない十字路交差点の事故で、一方の道路に一時停止の規制のある場合の出合い頭の衝突事故における過失割合は、別冊判例タ38号【104】では、一時停止規制のある車両の過失が80、一時停止規制のない車両の過失が20となっていますが、裁判例では、一時停止規制のない側の自転車について、前方のカーブミラーを見ていなかったことや、右側を走行していたこと等、四輪車同士の事故の場合とは異なる事情を考慮して、一時停止規制のある自転車の過失を75、一時停止規制のない自転車の過失を25と修正する裁判例もあります(東京地方裁判所平成25年4月23日判決)。
他にも、自転車の事故の場合には、傘さし運転、イヤホン・ヘッドホン使用、スマートフォン等の画面の注視、二人乗り、ヘルメット不着用など自転車特有の事情が考慮され過失割合が修正される場合もあります。
4 さいごに
このように、自転車の事故の場合には、自転車特有の事情を考慮して過失割合を判断されることが多々あります。そのため、自転車に関する事故が発生した場合には、ご自身で安易に判断せず、弁護士に相談することをお勧めします。


