車を運転される方は任意保険に加入していると思いますが、任意保険にセットで付いている人身傷害保険というのをご存知でしょうか?

人身傷害保険とは、自動車事故によってご自身や同乗者が死傷してしまった場合や、ご自身やその家族が他の車に乗っているとき又は歩行中に自動車事故にあって死傷してしまった場合などに、過失の有無や割合にかかわらず、保険金が支払われる自動車保険です。

この保険は、ご自身の過失の有無や割合にかかわらず、保険会社の支払い基準に従って実際に生じた損害が補償されるため、ご自身に過失がある場合に大変役に立ちます。例えば、AさんとBさんが交通事故を起こしてしまい、Aさんに1000万円の損害が発生しましたが、Aさんの過失が70%であったケースでは、AさんはBさんから300万円しか賠償してもらえないということになります。しかし、Aさんが加入している任意保険の人身傷害保険を利用すれば、1000万円全額を補償してもらえる可能性があります。

また、交通事故の相手方が任意保険に加入しておらず、相手方からの十分な賠償金の支払いが期待できない場合にも有用です。例えば、ご自身のご家族が歩行中に交通事故に遭ったものの、相手方が任意保険に加入しておらず、十分な賠償を期待できないケースでは、事故に遭われた方が記名被保険者の配偶者、記名被保険者又はその配偶者の同居の親族・別居の未婚の子であれば補償の対象となります。

ただし、人身傷害保険はあくまで保険会社の基準に従って算定される損害額を補償するものですので、裁判基準によって算定される損害額よりも少なくなってしまいます。また、人身傷害保険金を支払った保険会社は、相手方に求償する権利を取得することになります。そのため、ご自身に過失が発生する事案では、裁判基準によって算定された損害額と人身傷害保険によって支払われた額との差額を相手方に請求できるのか、人身傷害保険金を支払った保険会社は相手方に対して幾ら求償できるのかといった複雑な問題が議論されてきました。

しかし、この問題については平成24年2月の最高裁判所の判決により、一定の結論が出されました。内容を簡単に言うと、人身傷害保険金として受領した分は自らの過失部分に充当されるというものです。例えば、裁判基準による損害額が1000万円、過失割合が50:50というケースでは、人身傷害保険がなければ、相手方に500万円しか請求できないことになります。しかし、人身傷害保険金が800万円支給された場合、その800万円は優先的に自分の過失部分に充当されます。その結果、裁判基準の1000万円と人身傷害保険による800万円の差額200万円についても相手方に請求できるということになります。また、人身傷害保険を支払った保険会社は、契約者の過失部分(500万円)を上回る分である300万円を相手方に求償できるということになります。

このように、ケースによっては人身傷害保険は大変有用な保険ですが、どのようなケースが人身傷害保険の利用に適するのか、いつ人身傷害保険を利用すべきか(相手方からの賠償金を受領する前か後か)といった点については難しい問題もありますので、人身傷害保険の利用をご検討の際には私達専門家にご相談下さい。